ニートで悪いか！

ニート君も、はじめからニートだったわけじゃない。
もとは、システムエンジニアだったんだ。それも、かなり優秀な。私は、一緒に働いていたからよく分かる。彼は、間違いなく、優秀なエンジニアだ。
会社勤めをやめた今でも、エンジニアの才能は眠っていないようだ。彼の部屋には、ハイスペックのPCやWSが置かれていて、趣味とも仕事ともつかないようなことをガチャガチャやっている。ニートなんだから、「仕事」と呼ぶべきものは行っていないだろう。でも、それらの機器を使って、遊び呆けているわけじゃあない。では、何をやっているのか？
まず、趣味の一つである「CGの作成」をやっている。趣味だから遊びか、と言うと、そうじゃあない。とても遊びなんて呼べたレベルではない。プロ顔負けの腕前なのだ。二次元の静止画から、３Ｄの動画まで、器用に作る。
次に、ホームページを作ったり、ブログを更新している。これも、まったくの遊びじゃない。別のところ(ニートの稼ぎ方)で詳しく書くけど、彼の生活資金を稼ぐこともやっている。稼ぐ？　稼いでたらニートじゃないじゃん。と思うかもしれないけど、まあ、それは別途、くわしく。
そんな感じで(て、どんな感じだ？)、会社にこそ行ってないが、彼は自分ひとりでエンジニアリングをしている。彼は、プログラマー、SE、SI、プロジェクトマネージャー、セキュリティーマネージャーなど、とにかくいろいろとこなして来た。本当に優秀なのだ。日本でも、今年になってやっと個人情報についての重要性が一般的な話題になったが、彼は十年以上前から、システムに於けるセキュリティーの重要性について、自分の会社に、そして、クライアントに訴えていた。周りは、そんな彼の発言を、冷たくあしらっていた。ま、それだけが理由じゃないんだけど、そう言った「自分と世間のギャップ」が、少しずつ大きくなって行って、彼はニートになったんだな。
世の中に居るニートの人たちが、どうやってニートになったのかは知らない。だいたい、負け犬的な理由が多いのだろうか。世間的には負け犬だと思われがちなようだけど。少なくとも、彼に限っては負け犬じゃあない。彼は、出来る人間なんだけど、自分からビジネスの表舞台から降りたのだ。世捨て人と言っていい。
彼と話してみると分かるが、とても理路整然と話す。仕事ができる人間だと、すぐに分かる。それでも、世間一般の企業は彼を蔑み、採用しない。彼の方も、もう二度と、企業に所属する気は無い。今や、セキュリティー対策と言えば、どの企業でも必死になってやっていること。そのノウハウを、それも実戦から得たノウハウをたんまり持った彼のような人間が、ニートとしてくすぶっている。もし、彼が現場に居れば、新聞紙上を賑わしているような情報漏洩事件は、かなりの数、防げたであろう。彼には、それだけの実力がある。だが、世の企業は彼を採用しない。そして、年齢だけで基本給が高くなり、居眠りばかりしているダメサラリーマンが、不当にボーナスをもらっている。
「そういうのがね、いやなの。言っても分からないバカとは、もう仕事しない」
彼は、そう言って、今日もファンになったアイドルのブログを更新する。日本の情報社会が切望するセキュリティー対策のノウハウは、そんな彼の頭の中にある。

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